2014年04月20日

設定群より/ラブザナVer2.0直前の小話

竜殺しラジオ最終回記念としてストックされていたものです。
2.0もそろそろ完成になるので、若干手直ししてお送りします。Shoさん以外には意味合いが薄いかもしれませんが。






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 その日、世界全ての竜殺しがザナドゥに潜り、ジグワッドを殺した。
 
 特殊な煙幕でジグワッドの死骸が霧散するのを防ぎ、残留した死骸をパワーグローブで移動させてラボに格納。そこで一ヶ月間、魔法洗浄処理を施した後、死骸は地上に輸送された。
 
 地上がジグワッドの死骸で溢れ返る。
 竜殺したちはそれぞれが自分の仕留めた竜を見上げ、あるいは死骸の上に悠然と腰掛け、誇らしげに笑い合いながら、一斉にラジオのスイッチを入れた。
 世界中で同時に、ラジオの電源が入る。
 
 その日は、竜殺したちからオーバー・ファーザーと呼ばれた男の、ある卒業の日だった。
 
 
 
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Sound Trucks
 
 
 
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「ラジオジュエル、A1からR8まで安定」
 
「LOAD波、SAVE波共にオーバーラップレベル4以下」
 
「FAL−CAMは問題なく起動。設備波長の誤差16DOT以内」
 
「放送いけます」
 
 照明の落とされたひたすら巨大な部屋の奥から、オペレーターの声が聞こえてくる。
 黒いスーツを着た黒人の男、アジクス・ウォーゼンの目の前には、黄金に輝く全長5メートルのラジオジュエル300基と、無数の機材、そしてその機材を操作するオペレーターたちの姿が見える。
 
「放送時刻までは?」
 
 アジクスは腕時計を見ないで聞いた。
 ラジオジュエルの付近では普通の機械は作動しない。特に時間を表示するようなシステムはめちゃくちゃに乱れる。実際、腕時計の竜頭――時計好きはクラウンと呼ぶ――をいくらひねっても、針はそれを無視して逆に回転している。通常の数倍の速さで。
 オペレーターが大量の、大小様々な砂時計を次々にひっくり返しながら、即答する。
 
「あと5分を切りました」
 
 アジクスは頷いて、13時間ぶりに座った。ゴミ箱をひっくり返しただけの簡素な腰掛けだった。
 
「みんな、楽にしてくれ。危ないところだったが、毎回毎回10時間に渡るラジオジュエル調整作業も、これで本当に最後だ。裏方の我々も、楽しんでいこう」
 
 スタッフたちの歓声が上がった。もう泣いている者もいた。人間、巨人、妖精、ゴーレム、竜人まで、様々な“知種”が入り混じった職場だったが、みな表情は希望で繋がっていた。
 
 
 
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 ラジオジュエルが震える。
 その振動が特殊な元素を介して伝わり、無数の中継施設を経て世界中に届く。
 振動を受けた全てのラジオが、その元素の振動を空気の振動に換えて、吐き出した。
 
 初めに聴こえてきたのはラテン語の歌だった。
 
 
 
 世界は初め、青い均一な広がりで、
 ある時そこに波紋が生まれ、反響し、やがて大きな波をいくつも生み出した。
 
 世界がそうして獲得した、刹那々々の表情が、わたしたちの生きる世界の正体である。
 青い均一な広がりの中に生まれた、色彩の嵐が世界であり、わたしもまたそのひとつである。
 
 嵐の中で音楽を奏でよう。
 わたしの意志も嵐であるから。
 
 嵐の中で音楽を奏でよう。
 わたしの意志も嵐であるから。
 
 嵐に抗う、わたしの嵐が、わたしの音楽だ。
 風も、星も、音も、命も、鳥達も、巡る全てが、あの青い均一な広がりに生まれた嵐なのだ。
 
 種を蒔こう。
 次の嵐の――誰かが引き継ぐための、次の嵐の。
 
 
 
 
 古代の妖精、クレメリアが綴った詩だとされている。
 英雄が弓を剣の柄で弾いて音を奏で、クレメリアが歌うことで、竜の支配を受ける民衆を元気付けたという。
 ジグワッドを鎮める効力があるとされてきた歌だったが、最近はそこまでの効果は認められていない。
 それでも、この歌は西暦2013年に至ってなお、多くの竜殺したちの心の支えであった。
 
 その日、ひとつのラジオ番組が終わることになっていた。
 竜殺しラジオ。竜殺しを支援し、元気付けるという目的で送られる、音楽番組である。
 世界中の竜殺したちは別れを惜しみながら、迷宮で心寂しく戦う者を支え続けた、戦場音楽の数々と、合間に聞こえてくるオーバー・ファーザーとその片腕の男による、苦笑まじりのジョークに耳を傾けた。
 
 
 
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「300基、確かに受け取ったぜ」
 
 ザスーラは帳簿をめくりながら、眉をひそめて、冷や汗を流し、ようやくそれだけ言った。
 竜殺しラジオ・スタジオの裏手。大型のゲートから何十人という作業員が出たり入ったりを繰り返しており、ザスーラは帳簿と睨めっこを続けながら、時折、背後から来る作業員を器用に肩だけひねって避けている。
 
 帳簿には印刷された大量の情報、そしてそれ以上に多く、ザスーラ自身がペンで書き込んだ注釈が黒く赤く紙面を埋めていて、白地が残り少ないほどだった。
 DSL(ドラゴンスレイヤー・ラボラトリー)が保有し、竜殺しラジオで使われていた300基のラジオジュエル移送計画に関するリスト。
 ラジオジュエル1基で1億円の価値があり、さらに移設作業で1基600万円ほどかかっている。指揮を任されたザスーラは、散々上司――XL(ザナドゥ・ラボラトリー)所長に、うっかりミスひとつで恐ろしい結果になると脅されていた。
 ザスーラはここ一週間ほど、脅すくらいならアタイにやらすなと内心2秒に1回は毒づいている。こんなガチの工務と財務、秘書の仕事じゃない。
 もっとこう、酒とか飲みたい。そういう仕事だと思う秘書は。
 
「でも、いいのかよ。50基くらい残してラジオを続けることも出来るって、うちの所長あんなに…」
 
「いいんです」
 
 ザスーラの不安そうな表情に、DSLの受け付け係兼、所長秘書のディースラは微笑みかけた。
 
「どのみち、いつまでも続ける気はなかったみたいです、わたしの所長も。――神出鬼没の“種を運ぶ人”ですから、種はいつか埋めて、俺は旅立つしかないと、クソキザなことを仰ってました」
 
「種を運ぶ人か」
 
 ザスーラが反芻し、ディースラが頷く。
 
「次の時代を拓く、XLの作戦に全力を注ぐべきだと仰ってます。ラジオジュエルが1基でも多ければ、それだけ強力な軍事通信施設が作れます」
 
「悪いな…」
 
 ザスーラは振り返って、ディースラの視線の先、ゲートから搬出されるラジオジュエルのほうを見た。
 XLは大規模な侵攻作戦に合わせて大量の、安定した通信機器を欲しがっている。
 ラジオジュエルは通信機器のコアとして必要で、ここ一週間ほどで全国からかき集められていた。
 
「わたしの所長は、竜殺しラジオは完成したと言っていました」
 
 次々に大型トラックの荷台に搬入されていくラジオジュエルを見送りながら、ディースラはどこか誇らしげにそう言った。
 
「わたしが、ラジオを辞めるなんてどうかしていますって言ったら、説教されましたよ。永遠に続くものなんてない。交代は起きる。過去を美化するのではなく、未来を強化することが、過去に対する本当の礼賛なんだって」
 
 クレメリアに聞こえていたでしょうか。
 ディースラは風に乗せるようにそっと呟いて、トラックに背を向けた。
 
 ジュエルを載せたトラックが、風をきって前に進み始める。
 
 
 
 
 
 
 
 
posted by 座間 at 18:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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